日蓮上人が残した著作の中でも、最もポピュラーなものが「立正安国論」でしょう。
JR鎌倉駅から南東の方角に約1kmほどのところにある「立正安国寺」は、その名の通り、日蓮上人がこの寺内の岩窟で「立正安国論」を書きあげた(文応元年(1260年))とされ、また、建長5年(1253年)に鎌倉での布教を開始した庵があったという、まさに上人ゆかりの場所として、弟子の日朗が建てた寺が始まりとされます。
この寺には、樹齢350年と言われる山茶花があるということで、鎌倉巡りの最初に訪れることにしました。
12月29日、穏やかに晴れた日和の鎌倉。
駅の東口で電動レンタサイクルを借りて、早速出発しました。大町大路を進み、安国論寺の付近まで来ると、鎌倉中心部の賑わいも、すっかり静かになります。参詣に訪れる人も数えるほどでした。
手水舎のお地蔵さんにサザンカの花が・・・。
鎌倉は、京都と比べると温暖なのでしょうか。参道には、まだ、紅葉の名残がありましたね。
本堂の左手に、白い花を咲かせるサザンカがありました。
鎌倉市指定の天然記念物で、その数31件のうち、サザンカとしては唯一のものです。
木全体が白一色になるくらいに、一斉に開花していました。お寺の方にうかがうと、ここ数日の温かさで一気に花開いたようでした。花の咲き具合は気まぐれなので、たまたま見ごろに行き会えたという感じですね。
地表近くで二股に分かれ、参道側に伸びる枝は腐食が見られるものの、これだけの花を咲かせることのできる樹力は保っているようでした。
このサザンカの樹齢は350年と言われます。
日蓮聖人が籠った御法窟に連なるように建てられている「御小庵」は、元禄の頃に尾張徳川家より寄進されたものとされることから、その頃に植えられたものかもしれません。
寺のHPでは、「江戸時代に品種改良されて生まれた山茶花の姿をそのままに残している銘木」と記されています。
素朴で、蝶のような可憐さも感じるサザンカでした。ほんのりと桃色を花弁にのぞかせているところも魅力的ですね。
残念ながら、「御小庵」の中には入れません。
手の込んだ木彫りの獅子たちです。
「御小庵」そばにある、日蓮上人がついた杖から根付いたとの伝説の桜「妙法桜」です。
樹齢は760年といわれ、この伝説と符合しますね。
品種は、「市原虎の尾」といいます。この名は、京都市左京区市原にあった桜が、花の咲く枝が虎の尾の様にみえることから名付けられたということですが、近年の命名であり、樹齢が伝説通りであれば、鎌倉の時代から愛されてきた品種ということなのでしょう。
寄る年波には・・・という感じですが、残る枝幹には、今も美しい花が咲き、多くの方が訪れるそうです。
「御法窟」です。この岩肌に彫られた岩窟で、上人が一心不乱に著作に励んでおられたということですね。
熊王殿の脇から、急な階段を上り、富士見台へと出ると、視界が開け、鎌倉市街から由比ヶ浜まで一望できます。
上人は毎日ここから富士山に向かって法華経を唱えたとされています。
天候によっては、富士山を臨めるのでしょうね。
こうし見ると、鎌倉は、限られた土地のため、山あいまで住家がぎっしりと経っているのがわかります。
富士見台から先に進むと、草庵を焼き討ちされた上人が避難された「南面窟」などを回るコースとなります。今回の旅は、できるだけ多くの社寺を訪れたかったので、またの機会にということでショートカットしましたが、折角のことなので行っておいたらよかったと後から思っています。そんなに歩きやすい道ではなかったようですが・・・。
ともあれ、日蓮上人に関わる歴史的な出来事の現場で、当時のことに思いを馳せることができるとともに、山茶花、桜、紅葉、そして海棠や百日紅など、どんな季節でも彩りを楽しめるだろうところでした。
何とも年季の入った百日紅です。
安国論寺の山門を出て、大きなサザンカを見つつ、再び大町大路へ。
安養院などを横目にしつつ、次は宝戒寺へと向かいました。