臨済宗大本山の妙心寺は、南の総門から北の総門まで600メートルを超え、東西は500メートルにもわたる広大な境内に、40もの塔頭を数える大寺院です。
大伽藍をはさんで、2本の南北に伸びる主参道から各塔頭へと枝道が岐れています。
東側の主参道は、ところどころで折れ曲がり、角を曲がる度に、見えなかった塔頭が視覚に入り、散策の楽しさをより味わえます。各塔頭は、塀で囲まれ、門を構え、一つずつ独立した空間を形成しており、それぞれに異なる景観を見せています。
ところどころで、塀越しに椿も見られます。
ほとんどの塔頭は非公開なので、門や塀越しからの姿を垣間見ることしかできませんが、「桂春院」は、常時公開されている数少ない塔頭の一つです。
「桂春院」は、境内の北北東、中心伽藍からはやや離れた場所にあり、訪ね歩くうちに、閑静な参道の傍らにふと現れ出でたという雰囲気です。
桂春院は、1598(慶長3)年に、織田信忠の子、津田秀則によって「見性院」として創建されたと伝わり,後に、1632(寛永9)年に再整備された際に、「桂春院」と改称されました。
国の名勝に指定されている4つの庭園があります。一説には、小堀遠州の弟子,桂離宮の作庭に携わったといわれる玉淵坊が手掛けたものとされています。
最初に目にするのは、まずは心を浄める心構えの場所なのか、「清浄の庭」と名づけられた、渡り廊下と花頭窓のある壁とで仕切られたこじんまりした坪庭です。
紀州石を配置した枯山水の庭に、二種の椿が丁度咲いていました。主木である椿は、中大輪の暗紅色の唐子咲。先日に見た大徳寺・大仙院の庫裏前の椿とよく似ています。「日光」でしょうか。
もう一つ、渡り廊下のすぐそばに、つつましげに咲いている小木が「鹿児島」。可憐な絞りの花が、苔に映えますね。
非常に美しくて私も大好きな「鹿児島」ですが、とても成長の遅い椿です。この椿は、小さな樹形の方が姿がよいし、庭の雰囲気とよく似合っていました。
渡り廊下を進むと正面に楓の大木が枝を拡げ、左手には、樹々が鬱蒼と茂り、ほの暗い地面は苔に覆われ、大きな馬酔木の木の花がおぼろげに咲いています。
古びた蹲踞、風雅な「梅軒門」の向こうに既白庵茶室へとつながっています。この「梅軒門」を境にして、左手が「侘の庭」、右手が「思惟の庭」と名付けられています。
「思惟の庭」に接続し、方丈南側に並行して、「真如の庭」が広がります。楓の茂みを背景に、ごく手前に低い刈込み、その向こうの生垣によって区切られた苔庭に、椿やツツジの低木と、庭石が据えられ、これは十五夜の満月を示しているとのことです。
これら4つの庭で、悟りに至る過程を表現しているらしいのですが、そのような境地には至っていない私は、「清浄の庭」と「侘の庭」のヴィジュアルを楽しませていただきました。
緑濃い、静かな別世界のような空間でした。
これからの新緑のシーズン、雨上がりにツツジが咲くころが、もっとも美しいお庭になるのでしょう。