亀岡の西部、朝日山の北側山麓は、湯ノ花温泉郷が連なり、その東寄りに少し山中に入ったところにあるお寺が、「神蔵寺」です。以前に紹介した「苗秀寺」から1.5kmほどのところにあります。
菰川の流れに沿って、お寺への専用道路となる一車線道路に入ると、急に緑が深くなり、空気の違いを感じます。そして、木立と一体化したかのようなお寺が現れますが、これが「神蔵寺」です。
紅葉の名所として有名ですが、豊富な山野草についてもその道の人にはよく知られているようです。
新緑の青紅葉も美しかったですが、椿も見るべきものが多くあるいいお寺でした。(R7.5.11)
1 「神蔵寺」の歴史
開基は古く、最澄が道場を開いたと伝えられています。これは、伝説の域なのかもしれませんが、正暦年間(990~994)には、伽藍塔頭が26院もあったとされ、源頼光や源頼政をはじめ、源氏一門が帰依した寺として、僧兵も蓄え、相当な勢力を持っていたようです。
源頼政といえば、以仁王の平家追討の令旨に応じて兵を挙げ、宇治川の合戦で戦死したことが知られています。その遺骸が埋められたとされる「頼政塚」が、亀岡市のつつじが丘住宅地の中にありますが、かつては、この地「丹波矢田郷」が領地の中で一番宇治に近かったからだと伝えられています。この界隈は、古く源氏の勢力下にあったのでしょうね。
そういう誼もあってか、「神蔵寺」は、頼政に味方したので、平氏によって所領が没収されてしまいます。荒廃の後、再興したのですが、明智光秀の丹波攻めに再び灰燼に帰してしまいます。現在残る本堂は、1653年の再建とされています。
2 「神蔵寺」の名木たち
新緑の菰川に架かる「みかえり橋」を渡ると、いかにも山寺という雰囲気のある山門が見えてきます。
境内の樹々も、ある程度自然に伸ばすという、お寺のポリシーなのか、植物の旺盛な「生命力」を強く感じました。
境内に入ってすぐ右手に、樹齢を重ねていそうなウメの古木に出会います。太い枝が、垂れそうな苔を纏って、龍のようにうねっています。神様が宿っているような霊力を感じますね。
正面の石段下右手には、樹齢400年とされる「イロハモミジ」の巨木の雄大な姿が見えます。本堂再建と同時期のものなのですね。
紅葉はことさらに素晴らしいでしょうね。
さきほどのウメもしかり、庫裏の庭にそびえる柿の木も同じ世代の仲間のようです。
3 「神蔵寺」の緑、緑
境内から振り返ると、山門が緑に埋もれています。
緑のトンネルです。
4 心惹かれる野草たち
ちょっとピンボケの写真ですが、可憐な花を咲かせるタツナミソウです。
庭の世話をされていた住職の奥様らしき人から、いろいろと植物のことを教えていただきました。
山野草は、自然に生えてきたものも多いとのこと。市街地ではすでに見られなくなったものもここには残っているらしく、植物を研究している学生が、半日あまりも滞在し、満足げに帰っていったこともあるとか。
雑草と貴重なものが混じっているので、草取りも気を使っていると笑っておられました。
これからの季節、あっという間に草木が成長するので、管理も大変だと言っておられました。また、鹿も出没し、折角育った山野草もあっという間に食い尽くされてしまうとか。
いろいろとご苦労をされつつ、お寺を守ってくださっているようです。
5 「神蔵寺」の椿たち
最後に、境内の椿たちをご紹介します。
お手洗いに近いところに、年期を経た椿が、一輪だけ、名残の花を咲かせていました。八重のややこぶりな花。おそらく樹齢100年は優に超えているだろうとのことで、貫禄が幹から感じられます。
右手に見える椿は、侘助とのことです。
奥様からは、まだ、五色椿の花が咲いていると教えていただきましたが、本当に、最後の数輪が残っていました。今年は、相当、開花が遅れたのでしょう。
奥様からは、実は、五色椿の本命たる大木が、庫裏の裏手にあって、イロハモミジ、ウメなどと並ぶ古木らしきことをお聞きしました。
大変貴重な椿をぜひ見せてほしいとお願いしましたが、裏手の庭の整理ができていないということなので、残念ながら、見ることは叶いませんでした。いやあ、本当に残念でした。
寺の横を流れる菰川を渡って向こうの野草園の付近では、これも年数を経ているであろう椿の大木を見つけました。桃色の花がまだ咲いていました。
エビネの咲いているそばには、藪椿の大木。この椿も、咲き残りの花を見ることができました。
これ以外にも、椿の多さは想定外。このお寺は、椿も特筆ものです。
ゴールデンウィークを過ぎて、まだ、椿の花を見ることができたのはやや驚きです。
奥様もこんなのは珍しいこととおっしゃっていました。
ここは市内よりも紅葉が早いところなので、やや寒冷な気候もあってのこととは思いますが。
イロハモミジの巨木だけでなく、多くのモミジが緑のトンネルを成しているので、紅葉時はさぞ美しいことでしょう。自宅からもそんなに遠くはないので、秋に時間を見つけて訪れたいと思いますが、春の椿も魅力的なこともわかりました。
できれば、本命の五色椿を、いつか見てみたいものです。
6 野草園のエビネ