昨秋の特別拝観で、嵯峨野・厭離庵を訪れ、紅葉の美しさに、しばし時を忘れて見とれていましたが、紅葉のときだけでなく、季節折々に変わる姿をぜひ見たいところだと思いました。
特別拝観時に、ご住職から、椿のことをうかがっていたこともあり、拝観予約をして、春の厭離庵でゆっくりと時を過ごさせていただきました。(R7.4.12)
嵯峨野の愛宕道を案内の石標により折れて入ると、草深い庵を訪ねるかのような趣のある参道が延びています。両側に広がる竹林の合間に、藪椿が枝を広げ、紅い花を咲かせて、迎えてくれました。
予約した午前9時に合わせて、山門は既に開かれていました。苔むす石道と茅葺の小屋横に咲く椿が額縁におさまり、何とも情緒ある風景です。
園庭への石段の左手には、お目当ての五色散椿が。まだ咲き終わっていなかったとほっとしました。
新緑の芽吹く庭へと歩むと、主木の五色散椿が色とりどりの花を咲かせてくれていました。足元の苔の上には花弁が散り、まさに散椿の名前の通りです。
古色あふれる板葺きの門の上方に、白地に桃色の柔らかな筋が入る花と紅色の花が点々と枝先を飾っていました。花は、大輪というよりも、おしとやかな中輪です。
鄙びた風情には、ちょうどこれくらいの咲き具合が似合っているように感じました。
ご住職は、「例年は、桜の前くらいに咲きますが、今年はなかなか暖かくならなかったせいか、遅くまで咲き残りましたね。」とのことで、運よく間に合ったようです。
本堂の向かって左側「柳の井」そばにある有楽椿の大木は、さすがにこの時期なので、咲いている花はありませんでしたが、一輪だけ、落ち椿がぽつりと。
上品な桃色の花姿です。この花が、満開に咲く様子はさぞ美しいでしょうね。
前日に雨が降ったおかげで、園庭の苔も瑞々しく、カエデも若葉がほころんで、爽やかな緑に包まれています。
緑のグラデーションを背景に、椿の花と、ヤマブキの黄色が鮮やかです。
本堂の縁側に腰を掛けて庭を眺めると本当に心地よい。虫にも煩わされず、ゆったりとこの風景に浸るのは、贅沢このうえないですね。
秋に庭を真紅に彩るタカオモミジの古木は、まだ、芽吹き前でした。
ご住職によると、このモミジは、寺が再興され、厭離庵と名付けられた時に、選りすぐりの色合いのものが植えられたと思われるので、おそらく樹齢300年を超えているだろうとのことでした。有楽椿も、おそらくそれに近い樹齢だとおっしゃっていました。
このタカオモミジが、紅葉の記事にしばしば登場する有名木であるのに対して、有楽椿は全く無名であるのも惜しい気がしますが、人知れず咲くのも椿らしいかもしれません。
もう少し早くうかがえれば、桜も美しく見られたとのこと。
平安貴族が四季の風流を楽しんだ別荘を今に伝える場所だけに、いつ来てもその季節を感じることができ、飽きることがありませんね。