市街から20キロあまりにある山里は、観光化が進んだ今でも、どこかほっとする昔ながらの雰囲気を残しています。
自然の美しい風光明媚な地であることに加えて、古くは、惟喬親王、建礼門院、西行などが隠棲し、また、比叡山の西麓にあるため天台宗の名跡も多く、歴史・文化資源にも恵まれた有数の観光地となっています。特産の赤紫蘇を用いた柴漬けも有名です。
(令和7年6月28日)
1 「椿地蔵」と展望所
大原「三千院」へは、「呂川」沿いに坂道の参道を上ります。
まだ6月なのに、9時半ですでに市内は30度を超える真夏日となりましたが、さすがに大原、緑陰と渓流の冷却効果もあってか、心地よい涼しさを感じる道行でした。
途中、「椿地蔵」の道標を見つけ、意外なところに名木があるかもと、小橋で「呂川」を渡ると小さな祠がありました。
落椿に埋もれたという、名の由来にふさわしい古木はありませんでしたが、椿の群落が祠を囲むように、こんもりと葉を茂らせていました。
その先の段道を上がると、視界が開け、山に囲まれた、いかにも大原らしい田園風景を臨める絶好の展望場所に出てきました。赤紫蘇畑もいい色合いで風景のアクセントとなっています。
2 緑の大原「三千院」
「三千院」を訪れるのも久しぶりです。
御殿門へと連なる石垣は、苔に覆われた緑の世界です。
客殿からは「聚碧園」、宸殿からは「有清園」という、よく知られた名園を楽しませていただきました。
今は、最も緑が濃い時期。「聚碧園」の池の奥、やや暗がりの緑に、白く浮き上がっているのは、ちょうど見頃となった「半夏生」です。
宸殿から「往生極楽院」を見通す「有清園」は、参道の両側に、杉、楓の巨木が空に伸び、地は見渡す限り一面に苔が覆っています。
文字通りのモスグリーンをベースに、緑のグラデーションが鮮やかです。
大原を象徴する眺めの一つとして、まさに絵になる光景です。
椿もいくつかありましたが、さすがに、この大きな庭園の中では、目立つほどではありません。
「三千院」の名を戴いた桃色筒咲の品種「三千院侘助」の原種が見られるかなと思っていましたが、やはり咲いているときに来ないとわからないですね。
紫陽花は、そろそろシーズン終了間近、何とか見頃には間に合ったようです。
それにしても、観光客の多かったこと。
清水寺、金閣寺級の人出ではありませんが、この季節でこれだけの人がいるのは驚きでした。インバウンド効果でしょうが、特に、中国、台湾の方が多かったようです。
市内から離れているにしてはと思いましたが、ツアーに組み込まれるスポットとして定着しているのかもしれませんね。
3 静寂の大原「来迎院」
三千院を出て、呂川沿いに上流にたどると,人混みが嘘のように消え、木漏れ日のきらめく径には、樹々の香りがただよい、水の音、鳥の囀りが聞こえています。
ちょうど院坊から塀越しに流れてきた「声明」が耳に心地よく、まさに、ありがたい気持ちとなりました。雰囲気によくフィットしていました。
そうこうすると「来迎院」の門前に出てきました。
門内に入ると、苔むした石段の上の台地に立つ、杉木立に囲まれた古風な本堂が現れます。この鄙びた閑静なたたずまいは、本当に癒されます。
ここにおられる仏さまもまた素晴らしい。
「来迎院」は、当時7流派にわかれていた「声明」を統一した祖である良忍上人が1190年に再興したとされ、以後、多くの修行僧が坊を構え、大原寺の上院として、下院の勝林寺とともに栄えたと伝わります。
現在の本堂は、16世紀に再建されたもので、内陣に、薬師如来、釈迦如来、阿弥陀如来の3体の重要文化財の本尊と、毘沙門天、不動明王の2体の「脇侍」が安置されています。この仏さまたちは、応仁の乱前後の動乱や火災の際に、近隣のお寺から逃れて集まってきたものだそうです。
三如来像は、平安・藤原時代の作風を示す、小ぶりで丸みを帯びた、実に柔和なお姿です。とりわけ、薬師如来の優しい表情は印象的でした。最近に、神護寺の迫力満点の薬師如来を見た後なので、よけいにそう感じましたね。
三千院の往生極楽院に安置される阿弥陀三尊坐像は、荘厳、立派で、造形も独特のものがあって、さすが国宝という貫禄があり必見ですが、「来迎院」の仏さまの身近なありがたさもまた味わい深く、折角なので足を延ばされてはいかがでしょう。
見るべきところの多い大原は、一日かけて、ゆっくりと散策するのが正解です。
他にも行きたいお寺が沢山ありますし、花尻の森の落椿もまだお目にかかっていませんし、桜の季節にあわせて、ぜひのんびりと訪れたいと思っています。
午前中の駆け足の大原でしたが、「三千院」の参道へとつながる集落の裏道沿いで、かなり大きな椿の並木を見つけました。
もっとエリアを広く歩けば、ふとしたところで、心惹かれる椿に出会えるかもと期待しています。