洛南の椿寺~浄安寺

 久御山町・佐山地域には、前回紹介した雙栗神社とともに、椿で知られる浄安寺があります。

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 境内には、248種類もの椿を数え、寺の名を冠した「浄安寺椿」は、門外不出とされ、ここでしか見ることはできません。

 と言っても、敷居が高いというわけではなく、私のような一見さんにも親切にご案内いただき、昔ながらの地元のお寺さんという雰囲気のあるところです。

 今回は、この洛南の椿寺と呼ばれる「浄安寺」をご紹介します。

1 浄安寺の椿たち

 寺伝によれば、もともとは、1053年に創建された「浄福寺」というお寺を起源とします。

 この「浄福寺」は、雙栗神社が石清水八幡宮の分霊を祀り、椏本八幡宮と呼ばれていた時代には、その神宮寺となっていましたが、次第に衰微していったようです。

 天正元年(1573年)になって、平等院の玄誉徹公上人によって再興され、正親町天皇(在位1557~1586年)により、浄安寺の寺号と勅額を賜ったとされます。

 寺号については、「浄福寺」の「浄」と、同じく神宮寺であった「安楽寺」の「安」を引き継いだらしいと、お寺の方にお聞きしました。

 庫裏の軒下の縁台に、椿の一輪挿しが飾られ、来訪者を迎えてくれていました。

 これだけでも、たくさんの種類の椿があることがわかります。今見頃の花を教えてくれているようですね。

 「椿寺」と呼ばれるだけあって、境内には、椿が所狭しと植えられています。

 このお寺オリジナルの「浄安寺椿」は昔からあったのでしょうが、先代のご住職と、とりわけ奥さんが椿好きで、各所の椿の枝を挿し木で増やしていくうちに、椿寺と言われるほどになったということです。

 寺にある椿のリストには、「小式部」(長福寺)や「貴椿」(法然院)など、原木以外ではお目にかかれないようなものもあります。

 おそらく、いろいろな伝手をたどられて、枝を譲り受けられたのだろうと思います。

  

 境内を回り、椿を楽しんでいましたが、「浄安寺椿」がどこにあるかわかりません。

 呼び鈴を押しますと、現住職の奥様が出てこられ、案内していただきました。

 「浄安寺椿」は、本堂の裏手の狭い通り道にありましたので、これは案内いただかないと見つけるのは難しいかもしれませんね。

 開花が遅いらしく、「まだ咲いていないかも」と仰られていましたが、小柄な白い八重咲の花がちらほらと見えました。

 一輪の派手さはありませんが、満開時には見応えがあると聞きましたので、おそらく多くの花が一斉に咲きそろう姿が愛されてきたのだろうと思いました。

2 茶室「聞名庵」

 ネットの情報で、松花堂昭乗が好んだ手水鉢があるとあったので、あわせてお聞きすると、庫裏の奥にある茶室と中庭に案内いただきました。

 茶室には、先代住職の奥様の妹さんがおられ、手水鉢以外にも、お寺の縁起など、いろいろとお話していただきました。

橋桁に使われていた石を利用した手水鉢と聞きました。

 この茶室は、「聞名庵」といい、京都市長を務めた第8代京都市長の安田耕之助(1883年~1944年)の別邸内にあったものを昭和52年に移されたそうです。

 中庭の燈籠や井戸もあわせて移されたとのこと。

 大きな白侘助が枝を広げ、紅侘助も傍らに植えられていました。

 もう花は終わっていましたが、少し前まで茶室から楽しんでおられたということです。

 縁側には、椿花が飾られ、つばきに囲まれて暮らされている様子でした。

3 本堂の椿の一輪挿し

 再び本堂へと戻ると、今、涅槃図を開帳しており、ご住職がお話しいただけるとのことで、喜んで、堂内に上がらせてもらいました。

 お堂には。様々な品種の一輪挿しが並んでいます。

 花器も、備前信楽唐津など、各地の焼物を収集されたとのこと。

 先代の頃から始められたこの椿のお供えは、今も、毎年の行事として続けられているのですね。

 涅槃図の開帳は、3月いっぱいまでということで、ちょうどタイミングが合いました。

 涅槃図に描かれているものの意味や教えをはじめ、お寺の椿に関わるお話を聞き、住職が撮影された椿のアルバムも見せていただきました。

 ほかにも、いろいろと興味深いお話をうかがいましたが、扁額の「浄安寺」の鳥字は面白かったですね。

 字の中に鳥の姿が隠されているのですが、それと教えてもらわないと見過ごしてしまいます。

4 境内あれこれ

 境内右手にひっそりと建っている観音堂は、明暦年中(1655~1658年)に浄福寺から引き継いだものと言われています。

 堂内には、平安時代後期、仏師・康尚の時代の作風が現れているとされる、欅の一木造りの聖観音菩薩立像が安置されています。

 少年のような顔つきの見目麗しい仏像らしく、年に一度、8月に開扉され、その姿を拝むことができます。

 ご住職のお話を聞くうちに、降り続いていた雨も小やみとなり、最後に境内をもう一回りすると、本堂左手奥に、巨大輪の紅い椿が咲き誇っていました。

 

 

 これは「唐椿」で、平等院塔頭・最勝院の名木の挿し木を育てたものだそうです。

 玄誉徹公上人が平等院からこの地へと至り、お寺の中興の祖となったという寺伝にふさわしい椿ですね。

 久御山町は、あまり観光地というイメージはなく、浄安寺も椿シーズンに取り上げられることもありますが、大挙して人が押しかけるということもないようです。

 椿を見ながらのんびりと時間を過ごせる、椿好きにとっては、幸せな気持ちになれるお寺です。