昨年の大晦日、「かながわの名木100選」に選定されている椿2本のうちの一つ、横浜市鶴見区にある宝蔵院の五色椿を訪れてきました。
JR鶴見駅西口から、横浜市営バスに乗り約13分、「宝蔵院前」で降車、500mほど歩くと、住宅に囲まれた高台に「宝蔵院」があります。
天文16年(1547年)の創建とされ、天明の頃には水害、また、関東大震災による倒壊などを経て、昭和18年に現地に移転したようです。
階段を上がると、鎌倉時代のものとされる山門に迎えられます。
ごく普通の小ぶりな門ですが、獅子と獏の立派な木鼻に目が引かれます。
木鼻は、建物の強度を高める水平材である「貫」が、柱を貫通して飛び出たところに施した装飾です。
「貫」の建築手法は、東大寺の再建を果たした重源によって宋から伝えられ、広がったとされているので、木鼻は鎌倉期以降の建築物に見られるもので、時代が下がるにつれて、装飾が手の込んだものになっていきました。
鎌倉の多くの寺社で、「動物系」の凝った木鼻をよく見かけましたね。www.kyogurashi-neko.com
さて、この山門をくぐると、本堂の左手、客殿との間に囲われた一角に、大きな椿がありました。
高さ7m、枝張り6m、胸高周囲2mという、椿としては、かなりの巨木で、樹齢は600年に及ぶのではないかとのこと。
モルタルによる修復は見られるものの、幹や大枝に目立った損傷もなく、枝葉が旺盛に繁っており、まだまだ寿命を保ちそうな様子でした。
県の調査報告によると、50年ほど前に、樹勢が弱ってきたので、太根を切って発根を促す措置が効を奏して、元気を取り戻したと記載されています。
樹の北方10mほどのところに、良質の湧き水があるらしく、それも長寿につながる要素の一つとなっているのかもしれません。
「五色」の名のとおり、赤、白、ピンク、絞り、ぼかしの5種類に咲き分け、紅白のコントラストの美しさから、「源平」の名を頭に持つということです。
WEBに載っている花を見ると、蕊が花弁と混じり合って咲いており、いわゆる「牡丹咲」の形状に見えます。
「五色椿」といえば、京都の地蔵院、法然院、柊野などの名木が頭に浮かびますが、これらは「八重咲」で蕊が中心にまとまっていますし、500年ほど前に朝鮮から持ち帰られた地蔵院の先代の椿の系統のものです。
宝蔵院の椿は、種別も由来も、この系統とは異なる希少種なのかもしれません。
600年は伝承かもしれませんが、年月を経た椿独特の質感は、迫力と魅力にあふれています。
「緑青をふいたような幹」というのは、いい得て妙の表現ですね。雨に濡れるとより鮮やかな色になるのでしょう。
お寺の移転は80年ほど前のことですから、この椿は、随分以前からここで咲いていたことになります。園芸種なので、樹齢が伝えられているようなものだとすると、室町前期に、この場所に、寺社か屋敷が営まれていたのかもしれませんね。
例年4月に、客殿2階の大広間から花を愛でる「花まつり」が開かれているようです。
ちょうど客殿に沿う形で、高く広がる樹形なので、この広間は、間近に、同じ高さの目線に、五色の椿を堪能できる絶好のロケーションとなることでしょう。
機会があれば、いつか、そのときに来訪したいなと思いながら、宝蔵院を後にしました。