京都を囲む「三山」の西にある西山連峰は、愛宕山から嵐山、西京区大原野を経て、長岡京市へと連なります。
この大原野、乙訓地域にかけては、「西山三山」と言われる歴史ある名刹、「善峯寺」「粟生光明寺」「楊谷寺」が山中、山麓に分在しています。
長岡京市西南の山中に位置する「楊谷寺」は、806年に開創された古刹で、通称の「柳谷観音」の名で親しまれています。
空海の法力によって眼病に霊験あらたかとされた「独鈷水(おこうずい)」が有名でしたが、今は加えて、紫陽花の寺として、また、色とりどりの季節の花を浮かべた「花手水」が人気となっています。
ここには、樹齢200年を超える「五色八重椿」があるとのことですので、最近、疲れの目立つ眼の健康祈願かたがた訪れることとしました。
1 神仏習合の姿を今に残す柳谷観音を巡る
「柳谷観音」への足は、近くにバス路線はないので、車かタクシーを利用することになると思います。私は府道79号線のルートをたどりましたが、やや離合がしんどいなという区間もあるものの、きれいな舗装道で、さほどの難路ではありません。駐車場も何か所か、広く確保されています。
ただ、紫陽花や紅葉のシーズンは、かなりの人出となるため、渋滞するかもしれませんね。縁日の17日には、阪急「西山天王山」駅とJR「長岡京」駅からシャトルバスが出ているようです。
山門に至る寺塀は、門跡寺院のように、格式の高い五本ラインが入っています。
霊元天皇が「独鈷水」によって眼病を治癒されたことから、以来、歴代の天皇に「独鈷水」を献上することが慣わしとなっていたこと、東山天皇が安産祈願をされて皇子・中御門天皇を授かったことなど、天皇家とのゆかりも深かったことのしるしのようです。
山門(四脚門)から入らせていただきました。
山門を入ってすぐ左手には、最初の「花手水」がありました。一番大きく、華やかなものでしたね。
四隅を支える小人たちもユーモラスです。
本堂へと入ります。
柳谷観音は、神仏習合が、昔のままの形で残っている珍しいところであるということで、本堂前には、狛犬が鎮座しています。
本堂から西へ、書院を回り山の斜面を登るように回廊を進んでいきます。
地形を活用した庭園「浄土苑」が作庭されています。
回廊には、灯が提げられ、山中に浮かび上がるような雰囲気を出しています。
日が暮れると、よりインスタ映えしそうですね。
本堂の観音をお守りする鎮守社「眼力稲荷社」です。これも、神仏習合の姿を伝えているということです。
字からは、眼病に御利益があるのかなと思いましたが、「眼力」すなわち、先見の明を授けていただける、ありがたい神様でした。
2 樹齢200年を超える「五色八重椿」
さて、「五色八重椿」です。
上書院から少し上がった回廊の途中、左側にありました。
この力感に溢れた瘤状の根元は、200年以上の歳月の重みと風格を感じさせますね。
斜面なので、一層がっしりと地面を掴み、樹の重量を支えています。
回廊からは、屋根に隠れてしまい、身近で全樹容を見ることができないのが残念です。回廊を戻って、遠目からの姿です。上空に高く伸びています。
受付の方にお聞きすると、お参りの方も椿に気が付かない方も多いとか。
確かに、回廊からの見た目では、こんなに太い幹の木が椿だとは思わない方が多いだろうし、遠目からは、高いところに咲く花は、注意して見ないと紛れてしまうのかもしれません。
咲き分けの美しい花が見られ、椿のご朱印も購入できるそうなので、また、開花シーズンに訪れたいと思います。
阿弥陀堂の裏手には、何本か、大きな藪椿が並んでいました。
3 季節を映す「花手水」のいろいろ
これは「恋手水」というそうです。ハート型に象られていますね。
阿弥陀堂の南にある最後の「花手水」です。
椿のたもとにあるので、開花時は、椿の花が浮かべられていることでしょう。
4 眼病平癒の霊水「独鈷水」
独鈷水の由来については、弘仁2年(811年)に楊谷寺を訪れた空海が、溜まり水で、つぶれた子猿の眼を一生懸命洗っていた親猿の姿を見て、その湧き水に独鈷をかき混ぜながら祈祷を行ったところ、子猿の眼が無事に元通りに開いたという言い伝えによります。
空海は、この霊水を「独鈷水」と名付け、以来、眼病に悩む人々の間で信仰が広がったといわれています。
空海は、唐からの帰国後、811年から812年にかけて、乙訓寺の別当を務めたとされており、実際に楊谷寺を訪れ、親子猿の様子を見る機会があって、法力を発揮されたのかもしれませんね。
眼精疲労と老眼ですっかり弱ってしまったわが眼ですが、これからも働いてくれますよう、お祈りさせていただきました。
5 その他印象に残ったスポット
西の外れにあるヤマモモの巨木。初夏、辺りが、暗紅色の実でいっぱいになるそうです。
回廊沿いには、紫陽花が数多く植えられ、シーズンは多くの人で賑わいますが、紅葉前のこの時期、お参りする人もまばらで、のんびりとした散策気分を楽しめます。