全国に残る12のお城の天守のうち、国宝指定されているのは、五つのお城のみ、姫路城、彦根城、松本城、犬山城、そしてこの松江城です。
この夏の出雲・松江旅により、五つのお城すべてを見ることができましたが、さすがに、いずれも個性のある名城です。なかでも、松江城は、風光明媚で、落ち着いた松江のまちにふさわしい姿形で、天守から宍道湖を臨む眺望は格別です。
松江城が国宝指定されたのは、意外に新しく、2015年となります。
2012年に再発見された「祈祷札」に、慶長16(1611年)完成との記載があり、このお札が、地階の柱に打ち付けられていたことが、打ち痕がぴったり一致したことで明確となり、建築年代が明らかになった珍しい例として、国宝指定の決め手の一つとなったそうです。
また、松江城内には、刀用の油などに利用するため、多くの椿が植えられたとされ、城の西側に、今でも、「椿谷」と名付けられた場所もあり、藪椿の群落がみられます。
千葉の伊能滝、宮崎の延岡城と並んで、日本三大藪椿群の一つとして有名なところです。
1 松江城天守に上る
お城に入ると、まず「馬溜」(うまだまり)と呼ばれる平地に出てきます。ここは、お城の防衛と、進撃の隊形を整える拠点となったところです。石垣の高さは13メートルあり、「WORLD WAR Z」のような肉弾攻撃がない限り、第一防衛線としては、なかなかに強固なものだと思います。
この天守は、華美さや優美さとは異なり、質実剛健というイメージです。
そして、思ったよりも大きいお城でしたね。
高さは、22メートルあまりで、姫路城、松本城に次いで3番目だということです。
3階の真ん中の窓は「花頭窓」で、アクセントがついています。
お城の西側に回ってみると、正面から見るよりも、漆喰壁が少なく、黒色の下見板が目立ち、より古色蒼然という雰囲気を感じさせます。
戦乱の世から幾ばくも経たない頃の、実戦的な緊張も覚えますね。
内部の構造も面白いです。
柱の周囲に何枚かの板を張って修繕・補強している様子がわかります。
なかなか、巨大な木材の調達も難しくなってきた時代で、2階分の通し柱を、均等に各階バランスよく配置し、また、梁を通して、荷重の分散を図るなど、建築構造上に優れた技法を駆使しており、このことも国宝指定のポイントになったようです。
22メートルといえど、望楼から、市内、宍道湖を臨む景色を一望できるのは、気持ちの良いものです。
2 「椿谷」を歩く
無事、松江城を見学したのち、お城の南にある松江神社に接する東西の道を下っていくと、「椿谷」に出てきます。
椿の名産地との交流が盛んなのでしょう。結構、いろいろな品種の椿が植えられていました。
出雲にお集まりになった神様が、また、お帰りになるという、いかにも出雲らしいネーミングですね。桃色の唐子咲の品種です。
松江を代表する椿の一つですね。
リンゴのように、たわわに身をつける藪椿。
城の石垣に沿ったところには、藪椿の群落もありました。
実は、事前リサーチ不足により、折角の機会なのに、本来の藪椿群を見そびれてしまっていたことに後から気づきましたが、それこそ後の祭りです。
椿谷をもっとさらに北へと、松江稲荷神社のある「鎮守の森」の方へと行くと、古木、巨木の藪椿の群生が見られたようです。
ネットでも場所があまり詳しくは書かれておらず、失敗してしまいましたが、何とか、次の機会があればと思いますね。
「徒然草」第52段、「仁和寺にある法師、年寄るまで石清水を拝まざりければ、」みたいな気持ちになりました。
気を取り直して、19時前に、宍道湖のビューポイントへと。
あいにく、雲がかかり、完全な日没を見ることは叶いませんでしたが、それでも、わずかながらに、残照をのぞかせてくれました。
夕暮れのひととき、何も考えずに、景色に見入るなんて、日ごろ、こんな時間の過ごし方をすっかり忘れていましたね。
お日様の移ろいゆくスピードも意外に早く、すっかり日の落ちた後、本日のお宿の玉造温泉へと向かいました。