曼殊院で、早咲きの椿と紅葉を見る

1 モミジが色づく曼殊院

 曼殊院は、洛北・一乗寺、北西に比叡山を臨む山裾にある門跡寺院です。

 曼殊院へは、白川通を北上し、北大路を越えて、一乗寺清水町バス停北の交差点を右に入り、「曼殊院道」を東へと進んでいきます。

 この道沿いには、分岐点などポイントに、矢印の案内表示が出ているため、迷うということはありませんが、かなり狭いので、対向車、来てくれるなよと願いつつ、先へ急ぎます。

 しばらく道なりに進むと、突き当りにがらりと視界が開け、石段とその上に高く構えた門構え、その左右に、大きなモミジの樹々の土手が長く続く寺院が現れます。

勅使門です。こちらからは入れません。

 曼殊院は、平安時代延暦年間に伝教大師最澄比叡山上に創立したのに始まり、幾度か場所を移しながら、江戸時代の明暦2年(1656年)に現在の地に移転しました。

 移転時の門主は、良尚法親王で、造営に苦心されたと伝えられています。

 親王は、かの桂離宮を造営した桂宮智仁親王の次男であり、父から受け継いだ、学問文芸の素養の高さと、造園の才を発揮されたとされており、その当時の姿が今も残る貴重な文化遺産でもあります。

2 早咲きの椿と紅葉とのマッチング

 11月12日、土曜日、紅葉には少し早めでしたが、人出を考慮して、朝9時過ぎに到着。さすがに、駐車場はまだ数台しか停められていませんでした。

 駐車場脇に、何本か並んで植えられている椿が既に開花していました。桃色の可愛らしいもので、紅葉とのマッチングは秋咲きならではの取り合わせです。

 

 

 北側の通用門向かいに、雑木林があり、それなりの大きさの椿が林立しています。藪椿と思われますが、開花時には、モミジも葉を落としている中で、常緑の葉と鮮烈な花色が際立つ景色を見ることができそうな感じがしました。

撮影は、庭園のみで、室内は🚫となっています。
「竈媚」とは、論語からの引用。俗に説明すると、飯を食わせてくれる竈を奉る方が、奥の間で徳を高める努力をするよりも、実際のところ大事ではないかという問いに、孔子が、それは間違いだとおっしゃったとのこと(ネットで漁ったところからの私の受け取った解釈です。間違えてたら、すいません。)庫裏や台所が立派な曼殊院ならではの、諧謔も感じて面白いですが。                                   
庫裏右手の椿垣。いや、サザンカ垣かな。

曼殊院ホームページより

3 庭園の椿

 庫裏から、大玄関を通り、上乃台所へと進みます。

 この台所は、縦横15メートル以上もある立派なもので、当時としては、最新鋭のシステムキッチンだったのでしょう。当時の献立も紹介されています。ちなみに、「さかな」とあり、どんな種類の魚をどう料理しているのかなと見ましたが、まさに「肴」でした。精進料理で、魚の類はありませんでしたね。

坪庭にも手がかけられています。縁側の柱の周りの波紋が写実的でいいですね。

 小書院に向かう北側に、庭園があり、少し遠目でしたが、大きな椿があり、桃色の花を咲かせていました。それぞれ径20~30センチくらいの三本の幹の株立ちで、樹高は5メートル以上と思われます。

 この椿の後ろに、椿垣があり、同じ花が咲いていたので、同種で揃えているようです。庭の背景は、山の斜面の林となっています。

椿の幹の古色が、燈籠とよくマッチしています。                   

 この椿は、先ほど、駐車場脇で見たものと同一のものでしょうか。有楽のような気もするのですが。
 
 茶室、小書院、大書院の東と南側に、メインとなる庭園が広がっています。

亀島です。                   
(左)左端に、梟の彫刻が施された手水鉢が見えます。                  
(右)鶴島の樹齢400年の、鶴を表象した五葉松。根元にキリシタン燈籠が見えます。   

(追記 2023.4.2)

 桜と、紫色が映える「ミツバツツジ」です。

 枯山水庭園ではありますが、樹木が豊富に配されています。

 パンフレットには、「禅的なものと王朝風のものとが結合して、日本的に展開した庭園として定評がある」と記載されています。私のように、植栽と建物のマッチングが好きな者にとっては、枯山水は、ちと高尚過ぎますので、この庭園は、どちらを好む人にとっても、楽しめるのではないかと思います。

 小書院から大書院へと、直角に折れ曲がる回廊を巡りながら、庭園を見ることになります。したがって、自ずと、視線の向きが変わるということになり、当然それを意識して、庭の配置が計算されているのでしょう。何か絵巻物を見ているような印象がありました。

4 茶室横に立つ散り椿

 八窓軒茶室側の庭園に、一本の椿が静かに立っています。

 これは、散り椿で、曼殊院のホームページでは、白花を主に、枝替わりの紅花が映える、美しいものです。

 茶室からは、東側にこの散り椿、西側には、先ほどの桃色の椿と、客を迎える樹として、椿を主役に置いているのではないでしょうか。

(追記 2023.4.2)

 「五色八重散椿」ですね。寺の御配慮か、茶室近くまで廊下を進むことができ、椿を近くで見ることができました。静かに咲き、はらはらと花びらが舞い落ちる・・・。

 誰もいない書院に一人、贅沢な時間を味わいました。

 心なしか、葉の付き方が少なく、樹勢が心配です。

5 新しい宸殿と「盲亀浮木之庭」

まさに新築の「宸殿」が見えます。檜の香りに満ちていました。

 これは、150年ぶりに復興再建が叶った宸殿です。宸殿とは歴代天皇・皇室関係者の位牌をまつる門跡寺院では中心となる施設ということです。

 その前には、「盲亀浮木之庭」と名付けられる庭が広がります。

尚宸殿前庭は「盲亀浮木之庭」といい、大海に住む目の見えない亀が、100年に一度息継ぎのために頭を出し、そこへ風のままに流されて来た節穴のある木片の穴に偶然頭がすっぽりはまる。それほど仏教に巡り合うこと、また人間に生まれることは難しいということを表しています。
向かって左の木片を表す岩は天然記念物の木船岩です。(曼殊院ホームページより)

 

 曼殊院周辺の樹々も、色づいているものもあり、秋の陽光に照らされ、よい風情を醸しだしていました。


 混雑もなく、ゆったりと拝観させていただきました。

 また、椿咲く、春の曼殊院を紹介したいと思います。

(追記 2023.4.2)

 4月になると、モミジの新芽が一斉に伸びてきます。新緑の季節はもうすぐですね。

 隣接の曼殊院天満宮では、ミツバツツジが満開でした。桜と見まごうような美しさです。