桜満開の「哲学の道」。大勢の人出があり、外国からの観光客も多く、コロナ前の姿に少しずつ戻りつつあるような4月1日の土曜日でした。
銀閣寺観光駐車場に車を停めて、哲学の道を、桜を見ながら、しばらく南へと300メートルほど歩き、道しるべに導かれ、左に折れて、山手に向かって進むと法然院です。
法然院は、中庭にある三銘椿「五色散り椿」、「貴椿」、「花笠」が有名ですが、例年、開花時期の4月初めの一週間ほどの期間に特別拝観ができます。
令和5年は、1日から7日まででしたので、今年は、気温の高い日が続き、開花も早いだろうということで、初日に訪れることにしました。
今回は、三銘椿だけでなく、椿花による散華、椿の花手水、そして、境内林を赤く彩る藪椿群と、椿ファンにとって、見逃せない椿の名所、法然院をご紹介します。
1 藪椿の参道
法然院は、五山の送り火の大文字山の前峰になる小山「善気山」が裏山となっています。「哲学の道」から突き当たり、参道までの麓の道は、寺のある山手側に樹々が生い茂り、生垣のようになっていますが、藪椿が多く、まるで「椿垣」のようで、参拝者の眼を楽しませてくれます。
参道に入ると、竹垣の向こうに、ひときわ大きな椿が見えてきます。太くたくましい幹から、空高く樹冠を拡げ、紅い花を咲かせています。
この椿の大きさは、市内屈指のもので、樹齢は不詳とのことですが、300年は優に超えるものと思われます。実にりっぱなものなので、お見逃しのないように。
茅葺の風情ある山門をくぐると、左右にある白砂壇が目を引きます。放生池のたもとでは、椿一輪がセットされた手水鉢が迎えてくれました。
2 中庭の三銘椿
玄関から本堂に向かう回廊沿いの庭にも、椿が植えられ、絞の入った紅花が美しく咲いていました。
本堂に入り、ご本尊の阿弥陀如来坐像の前の、よく磨かれた須弥壇には、二十五菩薩を示す、椿の花が散華されていました。
本堂から方丈へと進むと、中庭に、いよいよ、図鑑や雑誌で見てきた、名高い椿を初めて観ることになります。
手前から、「五色八重散椿」「貴椿」「花笠」と並んでいます。寺社の椿は、苔むす庭にあるのが定番ですが、この中庭は白砂で覆われており、椿が浮き彫りのように、姿をくっきりと現しています。まさに、三本の椿を主役とする庭ですね。
まるで藤蔓のように、枝がねじれながら上空へと向かっています。長い時代にわたって引き継ぎながら、庭師が丹精込めてお世話をしてきたのでしょうね。
「五色散椿」は、樹齢250年と言われ(ものの本によっては、椿寺のものと同時期とされているものもあります)、根元が瘤状となり、象の足のような味わいのある印象深いかたちとなっています。
三椿の中で最も大きく、樹冠は屋根上に広がり、多様に咲き分けています。
「貴椿」は、白い八重咲の花に、紅い一筋が入る、上品な椿です。
「花笠」は、紅色の花に白斑が入る華やかな椿で、いい得て妙の命名だと思います。
「貴椿」、「花笠」は、法然院にしかない貴重なものです。ガイドの方は、ともに樹齢200年と仰っていましたが、特に「花笠」は幹がまだ細く、成長の遅さを感じました。
この銘椿を次世代へとつなげていくため、武田薬品工業株式会社の京都薬用植物園に保存樹として栽培されています。薬用植物園では、「貴椿」が咲いていたのは確認できましたね。
3 印象的な椿シーン
銘椿の寺だけに、椿の「絵」になるシーンがいろいろあります。
一番人気は、これでしょう。獅子が可愛らしいですね。
三銘椿以外に目を引いた椿たち。
4 法然院でゆったりと時を過ごす
方丈は、伏見城にあった、後西天皇の皇女の御座所を移築したもので、狩野光信作の障壁画(重要文化財)、「桐に竹図」「若松図」「槇に海棠図」が描かれています。
襖絵は色彩が残り、往時の姿を今に伝えていますが、床の間や壁に描かれた「桐に竹図」「若松図」は、かなり色褪せています。取り外しがきいて、収蔵庫に保管できる襖絵と違い、退色してしまうのはやむを得ないところですね。
落ち着いた雰囲気の方丈から、深山の趣漂う庭園を見る時間もよいものです。
「哲学の道」を少し離れたところにある法然院は、観光客が列をなすということもなく、ゆったりと、時を過ごすことができます。でも、意外に、外国の方が多かったですね。通な方も結構おられるようです。
法然院から安楽寺、大豊神社へと向かう径の傍らのお地蔵さんに、藪椿の花が供えられていました。